











8月の暑い一日。場所は小さな湖の湖畔。 写真家とモデルがそこで描いたのは、いわば、写真を仲立ちとした、人どうしの、純粋なやりとりのようなものだ。写真家は日頃、多くのタレントやモデルに出会っている。しかしマリアンナに動かされたのは、そのみずみずしさ、透明感あふれる美しさゆえではない。 生まれや年齢や性差をよそに、人の何かが別の人の何かを揺さぶることがある。家族でも友人でも恋人でもない。その名状し難い「やりとり」のようなもの。 それを促すのが写真という仕組みであり、ある特別な日、場所がそこにまるで必然があったかのように交わって行った。
「と或る年のと或る日にどうして僕はマリアンナという人と山梨の湖畔にいるのだろうか。人と人が出会いともに時間や空間を共有するということは不思議なことだと思った。それはいつか記憶となって 心の中に残るのだろうか」(写真集『Marianna』作者のことばから)
すぐれた写真家は気の流れのようなものをつかみとるものだ。呼び寄せたかのように、梢は揺れ、水面は輝きを増す。ふたりのやりとりが周囲に伝わり、反応がこだまする。そして画面にあらわれた像は、ときを経て写真家とモデルのもとに帰ってくる。 撮影があった夏の日から季節がめぐり、次の夏はすぐ近くに来ている。写真家は彼女の写真と過ごす時間を持ち、いくつかの花を撮った。
写真に定着された夏の日は、心の中で何と結び、何と響きあうのか。人は記憶をたどりながら、いつも日々を見つめている。
蓮井元彦写真集『Marianna』に寄せて
池谷修一(写真編集者)写真・テキスト:蓮井元彦
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仕様:21.6 × 16 cm/32頁/ソフトカバー
言語:日本語
発行年:2021年5月
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蓮井元彦(はすいもとひこ)
1983年生まれ、東京都出身。2003年渡英。Central Saint Martins Art and Design にてファンデーションコースを履修した後、London College of Communication にて写真を専攻。2007年帰国。国内外の雑誌や広告などで活動するほか、作品制作を行う。2013年、自身初となる写真集『Personal Matters』をイギリスのパブリッシャーBemojakeより発表する。主な写真集に『Personal Matters』、『10FACES』、『10FACES 02』、『Personal Matters Volume II』、『Yume wo Miru』、『Deep Blue – Serena Motola』、『吉岡里帆写真集 so long』、『for tomorrow』などがある。また、2019年にはG20大阪サミットにて京都・東福寺で行われたTea Ceremonyに際し制作された図録の撮影を手がけるなど活動は多岐にわたる。